病気になりやすい「性格」:5万人調査からの報告
病気になりやすい「性格」 5万人調査からの報告 (朝日新書)
- 作者: 辻一郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/06/11
- メディア: 新書
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◆クレッチマーの性格類型論
クレッチマーの性格類型論は、ドイツの精神科医、Ernst Kretschmerが提唱したもので、人の体型は性格気質と関連するという理論である。古典的な理論なのでWikipediaを見れば教科書的なことはわかる。
すなわち、やせ型の人は「分裂気質」であり、非社交的で無口、肥満型の人は「躁うつ気質」であり、社交的で陽気だが気分の波があり、愉快な時と憂鬱な時がある。また、筋骨型の人は「てんかん気質」であり、固く几帳面、丁寧だが怒りやすいという。
心理学の教科書では必ずと言っていいほど目にする古典的な理論だが、残念ながら実証的な根拠はないとされている。
◆タイプA性格傾向
タイプA性格傾向とは、競争的、野心的、敵意、時間的切迫感、性急さ、達成努力の高さなどに特徴づけられる性格傾向で、冠状動脈性心臓疾患の発症リスクを高めるパーソナリティ特性とされる。
Rosenman et al. (1975)が、成人男性勤労者3154名を対象として実施した調査では、タイプAでない人々における冠動脈疾患の発生率が、1000人当たり5.9人であったのに対し、タイプAの人では1000人当たり13.2人と、実に2倍以上の開きがあった。
◆性格と病気の関連を調べる
このように、昔から性格は、体型や疾患など様々な変数と関連すると考えられてきた。しかし、それが事実かどうかは、実際に調べてみないとわからない。
だが、調べると言っても、ことはそう簡単ではない。例えば「タイプA性格の人は、心疾患になりやすいか」を調べるためには、実際にタイプAの人とそうでない人を集め、彼らが実際に心疾患になるかどうか、長期にわたって追跡する必要がある。
そういう訳で、この手の研究は非常に時間とコストがかかり、そう簡単には実施できない。だから、実際に調べてみることは中々簡単ではないし、いざ調べてみると、「今までの常識とは違う!」という驚きの発見が得られることもある。
◆実際の調査の結果
まずクレッチマーの理論だが、我が国ではクレッチマーの理論と (完全にではないが) 整合する結果が得られている。すなわち、やせ型の傾向は神経症傾向と関連があり、肥満型の傾向は外向性と関連があった (Kakizaki et al., 2008)。しかし、アメリカの調査では、肥満型は陽気と言うより抑うつ的な傾向が高いそうである。
なぜこのような文化差が見られたのか。クレッチマーがこの理論を提唱した100年前の欧米では、肥満体型になるのは、比較的裕福な人々に限られていた。
こうした社会では、肥満は裕福さの象徴であったし、こうした裕福な人々の中には、社交的で陽気な人物が多かった。つまり、クレッチマーの理論は、当時の社会の様子と直感的には、整合していた。
しかし逆に、社会全体が豊かになった現代の欧米社会では、肥満は「自己管理ができていない」というネガティブな見方をされる。アメリカの肥満体型の人々の方が抑うつ的であるのはそういう理由があると考えられる。
タイプAの方は、実はアメリカでは調査が多くなされており、その中で、1980年代以降はそもそも関連を否定する論文の方が多くなった。これはアメリカ人の生活様式の変化が、タイプAを克服したのではないかと、筆者は考察している。
つまり、ストレス対処やリラクセーション法の浸透が、タイプAの悪影響を低減させたという可能性だ。実際タイプAの行動パターンを変容するカウンセリングを受けると、心疾患のリスクが低下することが明らかになっている (Friedman et al., 1986)。
他にも、従来がんにつながると考えられていたタイプCと呼ばれる性格特性を含め、性格は発がんリスクとはあまり関係がないことや (Nakaya et al., 2003)、生きがいの有無は循環器疾患による死亡リスクには影響するが、やはりこれも、がんによる死亡リスクには影響しない (Sone et al., 2008)といった興味深い知見が紹介されている。
医学領域の研究のためか、性格の測定が少々荒い感は否めないが、意外な発見が多く得られる。教科書的な心理学の知識をアップデートしたい人にはお勧めの一冊である。
病気になりやすい「性格」 5万人調査からの報告 (朝日新書)
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