オルタナティブロックの社会学
- 作者: 南田勝也
- 出版社/メーカー: 花伝社
- 発売日: 2014/04/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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しかし、不意の商業的成功によって彼らは、彼ら自身の嫌悪するコマーシャリズムの渦に一気に巻き込まれることになる。耐え難い重圧に苦しみぬいた末、1994年4月5日、奇しくもブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンらと同じ27歳の年に、カートは自らの頭を撃ち抜きこの世を去る。
この時点において(史上何度目かのことなのだが)「ロックは死んだ」。しかしそれから20年が過ぎた現在では、「ロックは死んだ」という言説自体が、もはや時代遅れな響きを持つ。今や「ロック 対 体制」というような図式は成立せず、ロックが反社会的と見なされるような社会的土壌自体が失われているのだ。
もちろん、サウンドとしてのロックは生きながらえている。しかし、「ロックは死んだ」という言葉が意味を成すような「ロック」は、本当に死んでしまったのである。では、今あるロックは今どのようなものなのだろうか。本書は「ロックは何に転じたのか」を解き明かそうとする一冊だ。
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結論から言えば(帯にも書いてあるが)、ロックは「波」から「渦」へ、「表現」から「スポーツ」へとその様相を変え、そしてそれらはロックを「表現性の音楽」から「身体性の音楽」へと移行させた。
ここだけ聞けば、何度となく嘆かれる「ロックの堕落」のストーリーを想像するかもしれない。しかし、ロックを語る上でありがちな、様々な言説のみで物語を構成するのではなく、技術的な変遷や実証的な調査の結果も織り交ぜつつ、ロックの変遷を丁寧に追っているのが、本書の特徴である。
例えば技術面でいえば、エフェクターやコンピュータの進化による音の加工技術の向上や、会場の隅々にまで均質に音を届けることのできるスピーカーシステムの登場が重要な要因として紹介される。
このような音響技術の発達により、巨大な会場で各楽器が轟音をかき鳴らし一つのサウンドを形成することが可能になった。解放された大空間の中で放たれるノイズと轟音は、聴衆の体幹を物理的に振動させ、何千何万という観客が文字通り身を震わせる体験を共有することが可能となる。
身体へのダイレクトな刺激を容易に提供できるようになったことで、ミュージシャン個人やその理念をメッセージとして発する音楽、すなわち「表現性の音楽」は、サウンド自体を身体で楽しむ音楽、「身体性の音楽」に取って代わられていく。オルタナティブロック的なサウンド自体は残り続けても、思想と哲学を背負って爆音を響かせていた初期のグランジ〜オルタナティブロックは徐々に姿を消していった。
そして同様の移行は、ロックフェスというイベントを見事に根付かせた日本においても見られるという。筆者らが行ったフェス参加者へのアンケートによれば、近年徐々に、「踊る楽しみを知った」というような意識変化が見られていることが報告されている。
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今後、また新しい「ロック」のムーブメントが誕生することはあるのだろうか。「ロック」が、ヴィクター・ターナーの言う「社会が閉塞状態に陥った時に生まれる反構造」の一つであるのならば、そうした「反構造」自体は今後も生まれるだろう。しかしながら、その「反構造」が「ロック」という形をとって現われるかどうかはわからない。
古くから民衆にとっての音楽は、「表現性の音楽」などではなく、圧倒的に「身体性の音楽」であったのだ。残念ながら読めば読むほど、筆者が言うような「ロック」は20世紀の極めて特別な条件のもとで育まれた産物だったのではないかと思われてしまう。
もちろん、筆者自身があとがきで述べているように、ある現象の歴史を「〇→〇」という単線的な変化に落として記述することは様々な危険もある。個別に見れば今でも多くのミュージシャンが新しい形の表現を模索している。自分なりの理念の表現を追求し続ける者もいれば、社会状況に応じた形での新しい表現性を模索する者もいる。これらが今後、「ロック」という大きなムーブメントと成りうるのか、それはまだわからない。
自分はまさにこの時代の音楽を(Snoozerを読みながら)聴き漁っていた人間である。本書にある様々なエピソードや知見、言説を通して、自分の音楽との出会いを再体験しつつ、当時の音楽的な体験を、大きな流れとして見直すことができ、個人的には非常に楽しかった。
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