エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究 その2
エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか
- 作者: M.クーパー,Mick Cooper,清水幹夫,福田玖美,末武康弘,田代千夏,村里忠之,高野嘉之
- 出版社/メーカー: 岩崎学術出版社
- 発売日: 2012/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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◆第三章 立場の違いは問題なのだろうか?*1
心理療法の効果には、流派による違いはあるのだろうか。特定の問題について特定の種類の治療が優れているという見方を「実効性格差」と呼ぶ。この問題は長い間、さまざまな論争の対象となってきた。
アメリカ合衆国における「実証的に支持された治療 (Empirically supported treatments; ESTs)のためのガイドライン」においては、治療の効果の実証性について次の3段階の評価がある。
○ 効力および特効性あり:efficacious and specific
プラシーボ効果よりも効果があるとする独立した研究が2つ以上ある*2
○ 効果あり:efficacious
治療なしよりも効果があるとする独立した研究が2つ以上ある
○ 効力を持つ可能性あり:possibly efficacious
効果があるとする研究が研究が1つ以上
言うまでもなく、エビデンスが多いのは認知療法、行動療法、認知行動療法である。様々な年齢、問題の種類の中で、認知行動療法が持つエビデンスは圧倒的に多い。
実効性格差を支持する立場への反論の主なものは、単一の疾患のみに分類されたクライエントを研究対象とするような認知行動系の研究手法が現実的には妥当でないというものや、研究における「研究者の思い入れ効果」を主張するものなど様々である。
特に、実効性格差に対して各流派とも治療効果は同等であるとする主張を「ドードー鳥の判定 (Dodo bird verdict)」と呼ぶ。Luborsky et al. (2002)のメタ分析では、治療間の効果量の差は平均で0.2であり、これはほぼ無視できる差である。
その他のメタ分析でも、流派間の効果差は同様に低いものである。この差は、「研究者の思い込み効果」を考慮するとさらに低下する (Lubosky et al., 2002; Wampold, 2001)。
ただし、流派間の差異が認められる時は、やはり認知的および行動的アプローチの方が効果が高いとされる傾向がある (Lambert & Ogles, 2004)。
また、全ての効果を均した時に差がないからと言って、特定の問題に対する効力に差がないということにはならない。すべてを平均した時の効果が同じであっても、やはり特定の疾患に対する外科治療と内科治療が異なるのと同様のことだ。
言うまでもなく心理療法には、各流派に共通する要素と、流派固有の要素とがある。また、「適正処遇交互作用」で知られるように、どのような処遇が効果的かということには個人差がある。結局は、心理療法の共通要因と固有要因、クライエントの要因などを総合的に考慮する必要があるのである。
こうした議論の出発点にできるのが、有名なAssay & Lambert(1999)だ。彼らの推定(ここ重要)によると、治療における変化をもたらす要因は、治療上の人間関係が30%、技法の差が15%、期待とプラシーボが15%、クライエントの要因および治療外要因が40%である。
我々は、ドードー鳥と実効性格差の二分法を乗り越え、より詳細な検討に踏み込んでいく必要があるのである。
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