最後の努力もそこそこに

滅多に更新しない読書記録です

エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究 その5

<―第四章へ目次へ

エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか

エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか

◆第五章 セラピストの要因*1
当たり前のことだが、例え同じ技法を用いたとしても、治療者によってその効果は異なる。治療者間の効果差は、効果量にしておよそ0.6と推定されており (Wampold, 2001)、これは、第三章で述べた治療技法間の平均的な差である0.2 (Luborsky et al., 2002)よりもかなり大きい。



つまり、治療の効果は「何の技法を用いるか」よりも、「誰が行うか」の方が影響力が大きいのである。ただしこうした個人差は、外れ値による影響が大きいとされている (Elkin et al., 2006)。



つまり、非常に有能な治療者と有能でない治療者が少数存在し、大部分の治療者はその中間レベルで機能しているということだ。



治療効果に影響を与えるような治療者の内的要因の代表は、セラピストの心理社会的機能の高さである。特に、治療者の安定的なアタッチメントスタイルは、より良い治療効果に結びつきやすい (Tyrrell et al., 1999)。



一方、治療者のパーソナリティや価値観が肯定的な効果に結びつくようなエビデンスはあまり見出されていない。とはいえやはり、クライエントは治療者のパーソナリティを重視する (Sloane et al., 1977)。



また、支配的な思い込みをしやすいといった、治療にとって望ましく無いことが明白なパーソナリティ特性は、クライエントに良い効果をもたらしていないということが示唆されている (Henry et al., 1990)。



しかしながら、こうした要因は、治療関係の質に直結するため、治療関係の質の影響とパーソナリティの影響との区別が重なりやすい。そのため、純粋なパーソナリティ要因の影響についてはまだまだ検討の余地がある。



また信仰深いクライエントからは、宗教的な価値観を持った治療者の方が好まれる (McCullough & Worthington, 1995)。これは信仰の一致というより、信仰に基づく行動や思考を逐一説明せずに自由に話せる点が重要であるようだ。



(ジェンダー上の)男性と女性の治療者では、効果はほとんど変わらないが、女性の方が幾分か良い結果をもたらす (Beutler et al., 2006)。また、治療者の年齢 (Beutler et al., 2004)や人生経験も、治療効果に影響する訳ではないようである。ただし、クライエントよりも10歳以上若い治療者は、そうでない治療者よりも、幾分効果が低下する (Beutler et al., 2006)。

<―第四章へ目次へ

エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか

エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか

*1:文献は基本孫引きです